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あの週末が、私たちを“家族”に戻してくれた(第三話)

あの週末が、私たちを“家族”に戻してくれた(第三話)

沖縄での再会、メグミの輝く笑顔


指定されたホテルのレストラン。

そのテラス席に、私は少し緊張した面持ちで腰を下ろした。

「久しぶりだね」

 声のするほうを振り向くと、そこにはメグミがいた。
陽の光を受けてきらめく笑顔は、学生時代のメグミそのまんまだ。

まるで、過去の時間が一瞬で巻き戻されたかのような気持ちになった。

「メグミ…変わってないね」
「あなたも。会えて本当に嬉しいよ!」

再会の喜びを静かに祝福するように、テーブルの上に落ちた陽が、やわらかな光を描いていた。

メグミの笑顔に、その光が反射して、ほんのりと頬を染めているように見えた気がする。

言葉よりも先に、胸の奥がじんわりと温まっていき、懐かしさと安心が、そっと心に沁み込んでいった。

私たちはすぐに、学生の頃のような自然体の空気に戻っていった。
仕事のこと、子育てのこと、未来への不安。言葉は途切れることなく、心の奥からこぼれ出た。

そんな中、メグミはふと真剣な眼差しで私を見つめた。
そして、静かに話し始めたのだ。

「会いたい人には、会いたいときに会う。それが、今の私の生き方なの」
少し間を置き、言葉を継ぐ。

 「実はね、数年前に病気が見つかったの。今も治療を続けているの」

彼女の言葉は、静かに、ゆっくりと重く沈んでいった。


あの笑顔の奥に、そんな時間があったなんて…。

私は思わず手元のナプキンを握りしめた。

「…つらかったね」
振り絞って出した声は、小さくかすれてしまった。

けれど、メグミはゆっくりと首を振る。

「つらいことはあるけど、それでも私は毎日を大切に生きてる。
今日、こうしてあなたと再会できたことも、その一つ。私にはすごく大きな意味があるんだよ」

彼女の瞳には、濁りのない光があった。
困難の中で見つけた、本物の強さ。
その言葉のひとつひとつが、私の心の奥に確かに響いた。

(──メグミはすごいな…。最近の私は、目の前のことにばかり気を取られて、 本当に大切なものを見落としていたかもしれない。)

メグミの前向きな話を聞きながら、私は静かに決意した。

「ねえ、メグミ。私ね、福岡に行ってみようと思うの。
航平に…子供たちと一緒に、会いに行こうって」

彼女の笑顔が、沖縄の太陽のようにさらに明るく輝いた。

「うん、あなたならきっとうまくいく。私も、ずっと応援してるよ」

 そして、こう続けた。
「会いたい人には、会いたいときに、会いに行くの。それが今の私の生き方。私はこの生き方を始めて良かったと心の底から思っているんだ。だから、あなたも会いたい人がいるなら、会いに行って欲しいな。」

優しく微笑みながら話すメグミに、なぜか目頭が熱くなった。

帰り道の電話

夕暮れの道を、ホテルからゆっくりと歩く。
空には茜色がにじみ、やさしい潮の香りが風に混じっていた。

私はスマートフォンを取り出し、少し迷ったあとで航平に電話をかけた。

「もしもし、私。」
『おう、どうした?こんな時間に珍しいな』

「…あのね、今度、子供たちと一緒に福岡に行こうと思って」
一瞬の沈黙。
『こっちに?どうしたんだ?』

「ううん、なんでもないの。ただ、みんなでパパに会いたくなって。
それに会社の福利厚生で、ホテルが安く泊まれるの」

少し間を置いて、彼の声が柔らかくなった。
『そうか…。来てくれるのは嬉しいけど、あまり構ってやれないかもしれないぞ』

「大丈夫。それでも、顔を見に行きたいの。子供たちもパパに会いたがってるし」

『……わかった。楽しみに待ってるよ』

たったそれだけのやりとりなのに、私の心は不思議と軽くなっていた。

「パパに会いに行こう!」という提案

家に戻って夕食の支度をしながら、子供たちに声をかけた。

「ねえ、みんな。パパに会いに行かない?」

キッチンの音が止まり、三人がこちらを振り向いた。

「ホントに!?福岡に!?」(美咲)
「パパ、ゲーム買ってくれるかな?」(陸)
「やった!僕、パパに会いたかった!」(海斗)

「うん。本当よ。みんなで行こう。久しぶりに、家族で過ごすのもいいと思って」

子供たちの瞳が、期待にきらきらと輝いていた。

小さな一歩

翌朝、出勤前にスマホを確認すると、総務からのLINEに福利厚生のお知らせが届いていた。
「リゾートホテル補填制度。最大77%会社負担」
その中に、航平の赴任先近くのホテルの名前を見つける。

迷いを振り切るように、私は担当者とLINEでやり取りをし、予約を完了させた。

これは、小さな、でも確かな一歩だった。

福岡での時間、ほどける距離

数日後、私たちは福岡行きの飛行機に乗っていた。
機内では、子供たちが窓の外を指さしてはしゃいでいる。

到着した空港で、久しぶりに見る航平の姿。
少し痩せたように見えたけれど、子供たちの顔を見た瞬間、表情がやさしく綻んだ。

「パパー!!久しぶり!!」
『うわ、みんな本当に大きくなったなあ!』

予約したホテルは、街の喧騒から離れた静かな場所にあった。
柔らかな照明と木の温もりが心地よい、あたたかな空間だった。

久しぶりに家族5人で囲むテーブル。
夕食のひとときは、どんなごちそうよりも心に染みた。

「仕事、大変だったね」
「あなたも、毎日頑張ってるんだね」

酌み交わすグラスの音が静かに響く中、
私たちは少しずつ、お互いの心の距離を埋めていった。

それぞれの想い

旅行中、美咲と二人で街を歩く機会があった。

「本当はずっとパパに会いたかったんだ。
ママとも、ちゃんと話したいのに…どうしても言えなくて」

彼女のかすかな涙声に、私は静かに抱きしめた。
この時間が、何よりも尊い。

陸と海斗は、パパと公園で全力で遊び、
夜はゲームで大はしゃぎ。

彼らの笑顔が、私たちの間に光を灯してくれた。

心の栄養、そして明日へ

リゾートホテルでの数日間は、まるで心のリハビリのようだった。
家族という、小さくて大きな温もりを、私たちは取り戻した。

沖縄に戻ってからも、その余韻は私の胸に残っている。

仕事でうまくいかない日も、焦らず、視点を変えてみる。
お客様と、少し丁寧に会話してみる。
すると、数字は自然とついてくるようになった。

──私、自分自身の可能性に、無意識にブレーキをかけていたのかもしれない。

メグミのまっすぐな生き方、家族との再会、そして自分自身と向き合った旅。

それは、私に新しい視点と希望を与えてくれた。

「やりがいって、何?」

今なら、きっぱりと言える。

「大切な人の笑顔を守ること。そして、自分自身を大切にすることだよ」あのときの鉛色の空の下から始まった私の物語は、
今、家族の光に包まれながら、穏やかな風とともに、しっかりと進んでいる。

(完)

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