
画面に、ひとつの通知
パソコンの画面に、小さな通知が浮かぶ。
「月間MVP受賞、おめでとうございます」
一瞬にして、頭が真っ白になり
驚きのあまりマウスを握る手が、震えた。
-「私が、MVP?」
信じられなかった。
でも、そこには、確かに自分の名前があった。
—
あの日の自分を思い出す
Meetにつながった初日。
うまく声が出せなかった朝。
最初の電話。沈黙。
チャット欄に届いた、たったひと言。
「初日、がんばってますね」
あの言葉が、
私の背中を押してくれた。
小さな「できた」の積み重ね。
誰も見ていないようで、
見ていてくれた日々。
そのすべてが、
今日へとつながっていた。
—
「すごいですね」
「おめでとう!」
「頼もしいです」
Meetの画面越しに届く、仲間の声。
メンバーの笑顔。
リーダーの拍手。
でも、いちばん泣きそうだったのは
自分だった。
-私、がんばってきたんだ。
自分のことを、初めてそう認められた気がした。
—
小さな背中に、のしかかる重み
「相談してもいいですか?」
「次、どうすればいいか迷っていて」
仲間からのメッセージが増えた。
少しずつ、相談される側になっていた。
うれしい。
でも、こわい。
答えられる自分でいられるか、わからない。
でも、
「背中を見せる」ことなら、できる気がした。
昨日の自分より、
一歩でも前に立っていられたなら。
—
画面越しの未来
「将来、どんなふうに働きたい?」
面談で聞かれたとき、
私はこう答えた。
「自分が、最初の一歩を踏み出せたように、
誰かの“最初の一歩”を後押しできる人になりたいです」
あの日の答えが、
今、ほんの少しだけ近づいてきた。
スパイクを脱いだ足で。
マウスを持つ手で。
ヘッドセットをつけた耳で。
違う形で、
走り続けている。
—
MVPの先に見えた景色
画面に並ぶ、仲間の顔。
それぞれの部屋。
それぞれの光。
「おめでとう」
「でも、これからだよね」
笑いながら、励ましてくれる声。
うん。
わかってる。
これからが、
ほんとうのスタート。
—
未来をつくる背中へ
パソコンを閉じる。
深く息を吐く。
窓の外に、月。
夜の静けさに、
小さく、つぶやく。
「……明日も、がんばろう」
自分の背中に、
そっと声をかけた。
そして、またひとつ。
小さな一歩を、
心の中で踏み出した。
未来へ。
誰かの「がんばろう」へ。
私は今、
未来をつくる背中になる。
【完】