第三話:「存在しないはずの発信者」
時計はまだ昼の1時を少し回ったところだった。
ベランダからは、どこかの家で干された布団を叩く音が小さく響いてくる。
奈緒は机に肘をつき、頬杖をついたままパソコンの画面を見つめていた。
Slackには新しいタスクやチャンネルの通知が並び、隣のスマホは昼に届いた子どもの塾からの連絡が光っている。
いつもと何も変わらない——はずなのに、胸の奥がずっとざわついていた。
何かを見落としているような、見てはいけないものを目にする前のような、言葉にできない不安が、そこにあった。
午後、少しだけ休憩を取ろうとタスク一覧を閉じたときだった。
Slackのアカウント設定をいじっているうち、見慣れないログファイルが目に入った。
管理者権限でもないのに開けてしまったそれには、短い履歴があった。
【2023/11/15 15:40】Slackログ削除
実行:NAKACHI_H
奈緒は息を止めた。
指先にじっとり汗がにじむ。
(……やっぱり。仲地さん)
でもその名前を誰かに聞いたところで、「もういない」「記録は残ってない」で片付けられる。
自分だってそう思っていた。
なのに——どんどん、そうじゃない気がしてくる。
午後3時すぎ。
作業用フォルダにアップされたばかりのデータを整理していると、ひとつだけファイル名が欠けているものがあった。
開くと、無音が続く音声ファイルだった。
それだけなら、ただのエラーかもしれない。
けれど、10秒ほどしたところで微かな声が聞こえた。
「奈緒さん」
心臓が小さく跳ねる。
「今度は、あなたが“誰か”を見つける番です」
女の人の声だった。
静かで、淡々としていて、でも優しく包むような。
聞き終わった直後、ファイルはエラーを吐き出して再生できなくなった。
削除も、なぜかできなかった。
奈緒はただ、机の上で組んだ自分の手を見つめた。
血の気が少しずつ戻るのを感じながら。
夕方。
ランドセルを背負った子どもたちが、追いかけっこをしながら道を駆け抜けていく。
「また明日ね!」
そんな声がやけに明るく響いた。
パソコンに届いた新着リストをぼんやり眺めていると、その中にひとつだけ気になる名前があった。
中地 遥
似ている。
でも、同じじゃない。
ただその文字を見ているだけで、胸の奥が不思議に温かくなる。
画面の右上には、自分の名前が小さく表示されていた。
担当:佐喜眞 奈緒
そっと息を吐いて、奈緒は軽く笑った。
カーテンがまた揺れて、冷たい風が足元を撫でていった。
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