「これ、誰……?」
Slackで送られてきたURLの先には、Instagramの最新投稿が表示されていた。
投稿者は、家で働くSA広報チームのスタッフ、知念まどか。
在宅ワークを行うスタッフたちの「働く姿」を明るく発信するため、社内のGoogle Meet会議のスクリーンショットを使って画像を編集したものだ。光量を調整し、コメントを書き加え、いつも通りキャプションを添えて投稿したばかりだった。
「私たち、隠れたヒーローインです☆」
主婦や子育て中のメンバーが中心のチーム。
その働き方が多くの共感を集め、フォロワー数もじわじわと増えてきていた。
まどかにとっても、この投稿は自信作だった。
だが、れなからの一言がすべてを変えた。
「画面の隅、見てみて」
表示を拡大した瞬間、まどかの背筋に冷たいものが走る。
画面の右端。うっすらと、しかし確かに、見知らぬ女性が写っている。
髪は長く、顔立ちはぼやけてはいるが、笑っている。
まるでそこに当然いるかのような立ち位置で、誰とも目を合わせることなく、カメラ目線で微笑んでいた。
まどかは元の画像データをすぐに確認した。
「……いない」
撮影直後の画像には、その人物は写っていない。
加工前のスクリーンショットにも、Meetの参加者一覧にも、該当する人物はいない。
「なにこれ、バグ? それともいたずら?」
焦りながら投稿を削除し、再投稿を試みるが、なぜか何度やっても、その女性だけが画像に現れる。まるで“再び現れる”ことが、彼女にとって自然であるかのように。
そして彼女は毎回、違う位置に立ち、表情を変えて写ってくるのだった。
「まどかさん、その画像、見せてもらっていいですか?」
数日後、社内の人事部のSMGR(サブマネージャー)である大城れなが、再び連絡してきた。
「気になって調べたんです。誰なのか」
れながSlackで共有してきたのは、2020年当時の社内オンラインイベントのスクショ。
そこには、問題の女性とそっくりな人物が、にこやかに写っていた。
「N.Aoyamaって名前だったらしいです。カスタマーサポート部門に所属してたって」
まどかは、即座に社内データベースにアクセスした。
しかし、その名前は見当たらなかった。
ただ一つだけ、非公開設定になったアカウント一覧に、削除履歴のない“存在”があった。
アカウント名:N.Aoyama 部署:CSS(Customer Support Section) 登録日:2020年4月12日 退職処理:記録なし
まどかは無意識に、肩をすくめた。
「消されてない……?」
その晩、彼女の自宅のPCにSlackの通知が表示された。
『アイコン画像を更新しますか?』
ポップアップに表示されたのは、問題のInstagram画像。
中央には、あの“女性”の顔が、くっきりと映っていた。
Meetの通知も表示されている。
『N.Aoyamaが、会議に参加しました』
その日以来、知念まどかは、Meetの常時接続をやめた。


